応用生態工学入門

aozorairo2004-07-12

 国連環境開発会議(1992;リオデジャネイロ)で「持続性」と「生物多様性」の概念、「気候変動枠組み条約」+「生物多様性条約」について話し合われ、経済発展と同時に人類が生息する環境場の保護についても話題にあがることになる。これに伴い、日本では環境基本法(1995)によって生態系保全の視点が行政に加えられることとなる。これを皮切りとして国土開発に生態学的な考慮が加えられることになる。2002には自然共生型流域圏・都市再生イニシアティヴが生まれる。これは総合科学技術会議内閣府)の一端であり、日本の環境行政が保護→保全→共生へとシフトしてきた中での共生シフトに当たる物と考えることが出来る。

持続性を確保する3要素
安全・防災
資源(水・食料・エネルギー)
環境

 国土保全の観点で見ると、旧河川法では治水(1896)、新河川法(1964)では利水に力をいれてきた。新河川法の改定(1997)で環境面への配慮が盛り込まれる形となっているが、治水・利水には相反する部分があり非常に難しいテーマである事は間違いない。今後は流域(水系、流砂系)で生態系・治水・利水の統合的な管理が重要でありWWF3(世界水フォーラム)でも重要なテーマとして扱われる。

河川連続体仮説
http://www.zspc.com/mokuzu/distribution/dist45.html
河川の環境を理解する際、近年特に重用視されているものに河川連続体仮説(River continuum concept)があります。この説は多くの研究者によりその重要性が確認されています。自然状態の河川では、温度、川幅、流量などの環境要因が連続的に変化し、物質やエネルギーの流れも上流から下流へと連続的につながる1つの系を形成しています。

上流では河畔林が茂り水辺が覆われており、流路への光が遮られ光量が少なく水温の上昇もおさえられ、また落葉などの有機物の供給が多くなっています。光を必要とする付着藻類や水生植物群落は発達せず、かわりに落葉を基礎資源とする腐食食物連鎖が盛んになっています。中でも落葉などに依存する破砕食者(シュレッダー)が優占しています。[...]

中流では川幅が広がるとともに植生が水面を覆う割合も減少するため、光を利用する藻類や植物が発達してきます。そのため植物の光合成に始まる食物連鎖が発達し、石面の付着藻類の発達に伴い、これらを餌とする刈り取り食者(グレイザー)が増加します。[...]

下流域では、水深も深く水中の懸濁物も増え、河床への到達光量が再び低下します。そのため植物の光合成による生産速度は減少し、かわりに上流から供給されるFPOMをもとにした腐食連鎖が盛んになってきます。河床に堆積するFPOMを取り込む堆積物収集者(デポジットコレクター)や、河床付近を漂うFPOMをとらえて消費する懸濁物収集者(サスペンジョンコレクター)が多くなります。[...]

 行政が環境について取り組むにあたり、事業評価(民間がやったのも・自分たちがやったのも)の必要があるためアセスメントとモニタリング・フォローアップが重要となる。アセスメントには1997年の環境影響評価法以前は閣議決定アセスメントで、以後は事業アセスメント(法アセス)といわれる体制に変わった。法アセスと閣議アセスの違いは、
1.対象事業の拡大
2.公害防止から、地球環境、生態系、身近な自然までが対象(基準をクリアーし、希少種だけを守れば良いのではない。注目種の生息環境(ハビタット)を守り評価する必要がある)
3.早期段階の手続きとして、スクリーニング、スコーピング(重点化・簡略化を検討)導入
4.住民参加機会の拡大・住民の地域限定が無くなる。
5.基準適合型から、環境影響の回避・低減努力を評価する視点へ
6.環境庁関与の強化
7.評価書が修正可、環境影響評価の再実施可
である。そもそもこの2つはベースとなる法律(閣議アセスは公害基本法、法アセスは環境基本法)が異なるので、この相違は妥当と言えば妥当である。

環境アセスメント
土地形状の改変、工作物新設その他の事業を行う事業者がその事業の実施にあたりあらかじめその事業による環境への影響について、自ら適性に調査、予測、評価を行い、その結果に基づいて環境保全措置を健闘することにより事業計画を環境保全上より望ましい物にしていく仕組み

 生態系に対するアセスメントをする際にアセスメント対象にする種を注目種と呼ぶ。ハビタット場でアセスメントをすることが本来望ましいと考えるが事実上それは不可能なのでハビタット場で特徴的な種に着目してアセスを行う。この注目種の選択については、
1.上位性:食物連鎖の上位種
2.典型性:物理景観に固有な種・群集
3.特殊性:微視的な生息場をもつ特殊な種
4.移動性:生活史上での移動
・ 学術上の貴重種
を考慮に入れる。
 河川景観の今日的管理手法はアセスメント(環境影響の回避・低減)とフォローアップ(モニタリングとレストレーション(復元))である。これは、河川法改正により治水・利水に加え環境も河川管理目的の一つになった現れである。
 砂州の形状は無次元掃流力(=流砂駆動力/摩擦抵抗)で分類されることが多い。砂州の中には伏流(本流が地下の非常に浅い所を流れる)が流れており、伏流は砂州と相互作用(浄化・鉛直浸透・脱窒)をもっている。砂州は通常緑化力(植物による河道内進入)をもっていて、これと洪水による擾乱が釣り合うことにより河道内には常にほぼいっていの植物がある状態になる。しかし、上流にダムが建設され、中小洪水による擾乱が少なくなると、掃流力よりも緑化の方が強くなり砂州はパイオニア植物→灌木群といった順に緑化していく。